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近世奇人伝

樵者七兵衛妻洛東蹴上に樵者七兵衛なるもの、一日山に入て、帰ること遅かりしかば、其妻迎にゆきたるに、とある崖下に柴お一荷にし、息杖にもたせながら、人は見えず、ふと見あぐれば、木の枝に大なる蚺首おたれて、腹ふくらかに見えしかば、こゝろきゝたる女にて、是は夫お呑たるならんと、やがて彼荷に添たる鎌おとりてむかへば、蜻ろおひらきて是おも呑たり、呑れながらこの鎌にて、口より腹まで切裂しに、夫はたして腹中にありて、己とともに地へ落たればだゞちに肩にひきかけて我家に帰り、数十日保養お加へて、常に復しぬ、