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近世奇人伝

内藤平左衛門関東のならひ、貧民子あまたあるものは、後に産せる子お殺す、是お間曳といひならひて、敢て惨ことおしらず、貧凍餓に及ざるものすら、効て此事おなせり、官の教あれども尚しかり、然るに陸奥白川の傍邑須加川といへる所に、内藤平左衛門といへる豪農、これお歎きて、年毎に縁お求て間曳んとおもふもの有ときけば、其養べき財おあたへて救へり、もと米価賤しき所なれば、多分の費にはあらずと自はいへりとなん、此人篤実類なくて学お好めり、されば是のみならず、人お救ひ、あるひは道橋お造り、慈悲お行ふこと多ければ、領主も賞し給ひて、苗字帯刀おも免され、士に准らへらるといふ、