[p.1159][p.1160]
古今著聞集
九/武勇
十二年の合戦に貞任はうたれにけり、宗任は降人になりて来にければ、ゆるしてつかひけり、嫡男義家朝臣のもとに、朝夕祗候しけり、或日義家朝臣宗任一人ぐして、物へ行けり、主従共に狩装束にて、うつぼおぞおへりける、ひろき野お過るに狐一匹走けり、義家うつぼより、かりまたおぬきて、きつねおおひかけけり、射ころさむはむざむなりと思て、左右の耳の間おすりざまにしりへ射たりければ、箭は狐の前の土に立にけり、狐其箭にふせがれて、たふれてやがて死にけり、宗任馬よりおりて、狐お引あげて見るに、箭もたゝぬに死たるといひければ、義家みて億して死たるなり、ころさじとて射はあてね、今いき帰なむ、其時はなつべしといひけり、則箭お取てまいらせければ、やがて宗任してうつぼにさゝせ給けり、他の即等是お見て、あぶなくもおはする物かな、降人に参たりとも、本の意趣は残たるらむものお、脇おそらして矢おさゝする事あぶなき事也、おもひきる害心もあらば、いかにとぞかたぶきける、