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志士清談
戸次道雪は豊後の鎧岳の城主也、能く士卒お愛護す、故に士卒度々殊功お立、危厄お救へり、道雪の寵童あり、近侍の士密に情お通ず、道雪これお知れども不問、近侍の士の友人、道雪の知る事お識て、近侍の士お諫て出奔せしむ、近侍の士不聴、然れども友人近侍の士刑せられん事お恐れて、夜話の次でに、東国の大将誰とは不知愛幸の侍童あり、其尼臣深夜枕お並べたり、大将怒て尼臣に腹きらせ、侍童は放斥せらる、寔に君の目お昧したる者なれば理に候、商人の物語に候故、始末は不詳候と、なき事お作て道雪の返答お試んとす、道雪の日、大将たる者忌妬の心ある時は、湫窄にして物お容るヽの量なし、物お容るヽ量なければ、将士悦服せず、外義お以て戦ふと、悦服に由て戦ふと、強勁なる所同日にも語るべからず、暴惡の如きは国法あり宥難し、世俗の習に染て其非お不識の類は、詐偽欺網に比すべからず、何ぞ命お断に至らん、友人退て近侍の士に語る、近侍の士感嘆不斜、〈○下略〉