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岩淵夜話別集

一土方勘兵衛、大野修理両人とも、本領安堵の義被仰付、此両人の義は、先年家康公伏見の御城より、大坂へ御越刻、五奉行の差図お請、家康公お殺害し奉らんと工し者なれば、いかに今度御味方に参、御奉公だてお仕迚も、其罪死に当れり、一命御助け被成さへ大成御慈悲に候、本領安堵には及ぶ間敷かの旨、密に申上たる人あり、其時家康公上意に、其身申処一理有様なれども、右両人の者共は、五奉行の指図お受て、家康おさへ殺せば、秀頼の為になると計、一筋に思ひ入ての義なれば、我等に対しては敵なれども、秀頼の為には忠臣也、殊更今度の一乱に、〈○中略〉万事味方の勝手になる事のみ取計、是又一廉の働也、其上旧惡さへ捨るおよしとす、況や此巳前大坂家中にて家康お相計しも、秀頼の為に成事ぞと、おもひ誤れる儀なれば、旧悪とすべき事にあらず、傍以今度の恩賞にもるべき子細なしと仰けると也、