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窻の須佐美

大炊頭利勝朝臣大老職なりし時、殿中より退出せられしが、時過て、思ひ出らるゝ事ありしかば、明日までは事延引申なり、いざ立帰り、相講せんとて、老臣達うちつれたちて立帰り、常の所に帰り入んとせられしに、常につかはるゝ坊主共、退出せられし跡にて、うちくつろぎ、煙草お呑で居れるが、俄に帰られしかば、驚て煙お払ふ事わすれ、平伏し居れり、たてまはしたる坐、七八人がすひし煙草の煙みちたれば、くらきほど也けり、朝臣入らんとして立帰り、面々が退し跡お払とて、ほこりたちて、むせかへるばかりなり、いそぎ掃へとて、二の聞ばかりこなたへ退、烟きえて後入られにけり、