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武野燭談
十六
板倉重矩折弓之事、酒井遠江守名剣試る事、
一板倉内膳正重矩、唐半弓お求て秘蔵あり、其製誠に麁工の及所にあらず、矢の飛事、大弓にひとしく、床に置て用心にぞ構られける、然に内膳正留守に、近習の小坊主不図引張過して、たちまちに引折けり、主人秘蔵の弓といゝ、隻事には有間敷と、小坊主おば押込置、帰宅に及で、此半弓の折たる事お申ければ、内膳一段機嫌よく、其坊主早々ゆるせ、武士たらん者、武芸に志すは、ほまれたる事ぞかし、其小坊主弓に心引るゝは、秘蔵なる事ぞ、又弓は強く引て用に立べきものお、肝要のとき折たらんには、日頃秘蔵の専嗜み置たる甲斐なし、今坊主が引折たるは、内膳が為に吉事ぞと被申ける、〈○下略〉