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仮名世説
仁斎先生存在の時、大高清助といふ人、道従錄お著して大に先生お誹譏す、門人彼書お持ち来て示し、且これが弁駁お作らん事お勧む、先生微笑してことばなし、かの門人怒りつぶやきていふ、もし先生弁ぜずんば、われ其任にあたらんと、先生しづかに言ひていはく、彼是ならば、吾非お改めて、かれが是にしたがふべし、我是に彼非ならば、我是は即天下の公共なり、固より弁おまたず、久しうしてかれも又みづからその非おしらん、女隻みつからおさめよ、佗おかへりみる事なかれとぞ、先生の度量、大旨此たぐひなりと、ある人かたりき、