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雲室随筆
同隣駅〈○甲斐郡内〉に小佐野和泉守といへる社人有、此人篤学の人にて、遠近に名お知らる、号柿園、著述も孝経注、大祓古説等有り、性質直の人にて、一も私意なく、郷人悉く尊信せり、一日或人来て告けるは、此間何者か社内の樹お盗み切取者あり、役人へ御届御詮義可被成と申き、柿園被申は御知らせ被下辱存候、作然氏子の中の者の致事なれば、強て咎るにも及ず、若是お咎候はば、外の山にても切取間敷もしれず、左様なる時は咎人となり可申間、御聞拾に可被成候様頼候と答ければ、其人も大に感じける、此事其樹お盗みし者伝へ聞て、大に恥ぢ樹お切事お止けるとなり、