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名家略伝

義僕元助
赤穂義士片岡源五右衛門高房の家僕お元助といへり、幼ときより高房の家に畜はれて人となり、篤実勤行にして、事お執ること甚だつゝしめり、高房、赤穂お去るの日に、かねて召しつかふ奴婢に、こと〴〵く暇おとらせけり、されども元助ひとり留りて去らず、高房に従ひて江戸に来り、朝夕薪水の労おいとはず、出入事お奉りて余力おのこさず、その心お尽すこと昔日に勝れり、〈○中略〉復讐のことはてしおりから、何くよりか来りけん、払暁高房が出るお待受け、一筥の密柑お捧げ持て、諸君さだめて昨夜のはたらきに渇し給はん、いざまいらせよと、彼密柑おおの〳〵にあたへ、泉岳寺までつきそひ行き、涕泣してぞ別れける、