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近世奇人伝

甲斐栗子
栗子は甲斐の国山梨郡の農夫某が妻なり、〈○中略〉山抜といふことにあひ、〈○註略〉水に溺れ死す、その時屍お堀出してみれば、十二なる養子お背に負、八つになりける実の子の手お引て有けり、幼きかたおこそ背には負べきに、長じたるお負るは、此時に臨て、遁んとかまふるにも、養子おおもくするの義お、おもふなるべし、女といひ辺鄙の産なり、何のまなぶ所もあるまじきに、天性の美かくのごときは、世に有がたきためしなるべし、