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古今著聞集
十九/草木
貞信公〈○藤原忠平〉なつめおあひしてまいりけり、式部卿親王の家によきなつめの木ありけり、其木おおろし枝にせられて、手づから身づから、花山院の北対のにしの妻戸の庭前にうへ給ひけり、是によりて其木左右なき名木にていまだ有、花山院太政大臣〈○藤原師実曾孫忠雅〉の三位の中将の時、法性寺殿〈○師実曾孫忠通〉摂政にて、六条坊門烏丸の御亭より、土御門内裏へまいらせ給ふには、近衛東洞院は便路なれば、もつとも此大路おこそとおらせ給べきに、いかにもよけさせ給ひけり、おのづから此大路おすぎさせ給とては、東洞院にしの四足おばすぎて、その棟門のまへにては、御車のすだれおおろされ、前駆以下お馬よりおろされけり、人あやしみて其子細お尋申ければ、ときの摂政、三位の中将おうやまふにあらず、亭に貞信公のまさしく手づからうへ給へる名木あり、かれに礼お致也、此事京極大殿〈○師実〉つぶさにしめし給旨、分明也とそ仰られける、