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明良洪範続篇

神君にも常に清正お御賞し有し也、殊に清正の内室は、徳川家に旧縁の女なれば、一入御念頃なりし也、此女の腹に男女二人出生有り、然れども清正奥方へ入りても刀お放さず、膝元へ引付け置る、或時五条の局と雲老女申けるは、表方に居らせらるヽ時はさも有りなん、奥方へ御入りの節は、女子ばかり中なれば、さのみ御用心には及ぶ間敷きにと雲ける、清正莞爾として、女子の知る事にはあらざれど、不審に思はヾ申聞ん、表方にては余が一命に代る家士共、昼夜怠りなく詰居れば、たとへ無刀にて居るとも気つかひなし、奥方にては皆女子ばかりの中故、厳重に用心する也と雲ける也、