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台徳院殿御実紀附錄

御平素、小鼓うつことお好ませ給ひしが、〈○徳川秀忠〉神祖かくれさせ玉ひて後は、絶てうたせ玉ふことなし、土井大炊頭利勝、御咄の折から、徒然におはしますおりは、例の小鼓あそばしなば、少しは御心も慰ませ玉はんかと申せしに、いやとよ、我も打度は思へども、今我天下の主として鼓うたば、下々の者ら、其風おまなび、皆鼓打になるべしと仰ければ、利勝あまりのかしこさに、涙おとして御前おまかでしとぞ、