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塩尻

尾敬公〈○徳川義直〉御在世の時、可被仰事ありて、目付の者共お、朝より召されしに、日たけて後、猿楽お召して、御噺久しく侍りて、暮に及びて、目付の者に、御前へ出べきよし、仰有りて、其御用被仰付候後、仰に雲、女等今朝より久しく待て、さぞ困み侍らん、今朝召仰すべきお、年老の者共出て、御国政の御沙汰ありしに、事御心に不協事ありて、しば〳〵御怒気ありしも、国の律お以て、非お糺し、内外お〓察せしむる役人に対し、其御怒気の儘、仰事あらば、国風俗お粛清するに、過て稽失大過あらんか、然れば下民恨お含んで、政おそこなふに至らん、故に暫く猿薬おめして、御怒気お休ませまし〳〵ける也、女等も必々事に当りて、血気お以て、事お処する事なく、我お恤刑の主となすべしと仰ありしと也、