[p.1236]
桃源遺事

西山公〈○徳川光国〉若き御時より御老後まで、御精進の節は、御別間に御入、朝夕の御膳、一汁一菜の麁食おめし上られ、役人に命じて、酒局お封緘せしめ、料理塩梅にも、酒お禁じ給ひ、一切の御遊興、御詩歌さへ不被遊候、その御したしみの近き遠きにより、御年忌、又は毎年の御祥忌月には、或は一七日、或は三甘、或は宵より、精進禊斎なされ候、其節御つゝしみの堅事、右のごとし、勿論御親類の御中に、御卒去の御方在て、御忌懸り申候節は、日月の光りに、御当り被成間敷ため、御一室の外は、昼夜御庭へも御出不被成候、且御喪中、あるひは御精進の時分は、御近臣三四人、並儒臣等相詰候、曾て世上の雑談不被成候、