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平家物語
十一
とおやの事
新中納言とももり卿は、かやうにげぢし給ひて後、小舟にのり、大臣殿〈○平宗盛〉の御前におはして申されけるは、みかたのつはものども、今日はようみえ候、但しあはの民部しげよしばかりこそ、心がはりしたるとおぼえ候へ、かうべおはね候はゞやと、申されければ、大臣殿、さしも奉公の者であるに、みえたる事もなくして、いかでか頭おばはねらるべき、しげよしめせとてめされけり、〈○中略〉新中納言は、たちのつかくだけよと、にぎるまゝに、あつはれしげよしめが、くびうちおとさばやと、大臣殿の御かたお、しきりに見まいらせ給へ共、御ゆるされなければ、ちからおよび給はず、〈○中略〉
せんていの御入水の事
あはの民部しげよしは、此三が年が間、平、家に付てちうおいたしたりしかども、しそくでん内左衛門のりよしおいけ取にせられて、今はかなはじとや思ひけん、たちまちに心がはりして、源氏と一に成にけり、