[p.1261]
常山紀談

信長森〈○蘭丸〉が明敏お試らるゝ事多かりけれど、一度もあやまちなく、其才老年の人も及ぶべきに非ず、明智が恨ある事お察し、潜に信長の前に出て、光秀飯おくひながら、深く思慮する体にて箸おとり落し、やゝ有て驚たり、是ほど思ひ入たる事、別の子細はよも候はじ、恨奉る事しか〴〵なれば、大事おたくむならん、刺殺すべしといひけるお、信長いやとよ、佐和山おば終に女にあたふべしといはれけり、此は森これより先に、父が討死の跡にて候へば、坂本お賜れと申けるお、明智に与へられしかば、讒言すると思ひ信ぜられず、果して殺せられき、