[p.1262]
武将感状記

一相模の小田原の役に、堀左衛門督秀政、先人お遣て、伊豆、相模、駿河、遠江にて、牛数十頭買置たり、秀吉箱根の嶮路にかヽるとき、秀政牛お以て糧お運ぶ、他の軍は是に迷惑すれども、秀政独り予め備へたるがゆへに患なし、ある夜、風雨はなはだしく天地暗し、秀政の曰、今夜必ず盗あらん、我士卒の馬鞍兵糧等、盗人に取られんより、其怠りお窺ひて、我みづから取るべしと、士卒此言お聞て寝者なし、其夜三度陣中お巡羅す、他の陣は多く盗みにあへども、秀政の陣は盗入ことお得ず、