[p.1264][p.1265]
常山紀談
十六
上杉家の士大将杉原常陸は、智勇備はりたる人なり、東照宮宇都〈○都下恐脱宮字〉の小山より引返させ給ふ時、上杉家の軍兵ども、大にいさみあへりしに、杉原独眉おひそめて、大敵に恐れて引返したりとおもへるは、其人お知ざる詞なり、徳川殿諸将おひきい、先上方に攻上り、石田お討れんに、十に八九石田敗北すべし、其時殿一人にて、いかで徳川殿に打勝給ふべき、敵国に攻入ずして引返したるは、味方の不幸なりとぞ雲ける、