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藩翰譜
十二下/古田
織部正〈○古田重勝〉は古き玩器の全きおば余りに思ふ所なしとて好まず、されば書昼やうの物おも、かしこお切りこゝお断ち、凡の茶具おも多くは損ひ毀りて、又補ひ綴りてぞ用いける、世の人皆興ある事に思ひ学びて、世に全き者のなからんとす、松平伊豆守信綱の実父大河内金兵衛久綱(○○○○○○)、常にかたへの人に言ひしは、必禍ひに罹りて死すべき者なりといひき、其後此人罪蒙りて誅せられしかば、人々大に驚き、如何で兼てより斯くは相知れるぞと久綱に問ふに、古の宝器と聞えしも、世々の乱に失せて、今ある所の物は、皆神仏の護持してこそかく世には残るらめ、それにおのれ一人の好に随ひて、損ひ破ること、必鬼神の惜む所にやあるべき、さらば其人も又身お全くして終る事お得べからずと思ひきと言ひしとなり、