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武野燭談
十五
板倉周防守重乗盗賊穿鑿之事酒井讃岐守忠勝金言之事
今は昔、豊島郡田畑村の与楽寺へ強盗多く押入て、僧侶余多切殺し、霊宝金銀等白浪の為に盗れける、〈○中略〉其比京都より板倉周防守重乗参向しければ、老臣の内より、此悪党共お可捜出手立、如何あらんと問れしに、以前より詮議之筋お一々に聞て後、某一手致し見んとて、片板一枚お取寄て、属託の黄金少分なれば難申出候、今一倍掛られば、同類共の在家お指可申、如何にも読能様平かなにて筆太に書認て、彼属託の傍に立添置れしお、彼盗賊の張本人が見て、扠は同類之者の中より此札おば立たるらん、然らば人に先おせられじと、不過其日庁所に出て訴人しける故、不残一人被召、忽法に行れける、