[p.1271]
松平信綱公言行錄
大猶院様〈○徳川家光〉御代、御台所より出火、御城のこらず焼失、其時火急なるに付、奥方女中衆大勢、西丸へ御移しなされ度旨、上意なれども、女中衆の事なれば、御殿の内、西丸への道筋、同道の人少しこまりなさるゝ所に、信綱公御前へ参玉へば、此由如何なされべくやと上意に付、即時に御請、仰上げらるゝは、畏り奉る、左様に思召るゝならば、御奥方より西御丸迄、御道筋へ御畳お、一々裏返し敷て参り候様に仰付られ然るべく存奉り候、左あらば、道筋疑敷あるまじと仰上られければ、御機嫌にて、奥方へ仰つかわされける、信綱公は大勢人お召連玉ひ、早速御畳おしきければ誰案内なしに、女中一人も怪我なく、西丸へ退玉ふ也、上様殊の外御機嫌なり、聞人扠々文珠とても、此上の智恵は有まじと申ける、