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智囊
一家光公〈○徳川〉或時御夜詰の時分、たかのおき縄之様成、火敷ながき糸おまきたる物お、此長さいかほど可有哉、急につもりて参れと被仰出、則御小性衆小細工部屋へ被致持参、色々つもり候へども、無限長き糸お巻たる物なれば、中々即時にはしれがたし、御前よりは御急ぎなり、迷惑したる所へ、伊豆守〈○松平信綱〉被参、其積にては則時には成がたし、安き事ありとて、其糸お十尋ひろいて切、此糸目おかけ、其重きいかの大巻の目お貫目にかけ、そろばんにてつもり、其ながきお申上ければ、則時に埒明、御機嫌残所無之、是も豆州はやき才なり、則時に御用相足り、皆々かんじ入、後迄も被申けると也、