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常山紀談
十九
細川家の長臣南条大膳恨おふくむ故有て、細川家お傾ん事お謀りけるに、其比深く密にする事ありて、洩なは細川家の禍なる事お知たりければ、先切支丹の事訴へけり、江戸より南条おめす、細川家驚きたれどもせん方なし、松野〈○亀右衛門〉我にまかせられよとて、囚人なれば厚き板にて詰牢おつくり、譬者一人に密謀お雲ふくめ、熊本より出るに、天気お待とて、処々に舟おとゞめ日お経る内に、人参の入たる薬おあたへ、朝夕の食物まで人参湯にて飲食させけり、南条は気の鬱したる上、人参数十斤飲たりしかば、心狂乱したりけり、松野江戸に打具し至りて、南条は数年狂気の者にて候とて出しけり、切支丹訟の事お問るゝに、狂言のみなりとて、熊本に帰すべしとて、松野に返されぬ、此謀たゞ医一人のみ知たりと雲り、