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本与錄

一人君はたとひいかほど才智発明たりとも、其智お蔵して、但人おしるお大智とす、人君みづから其智お用るは、人君の度にあらず、古人も評せり、夫一人の智限り有り、昔大俊お数聖人の内にて、大智と称せしも、能人お知りて、人の智お用ひ給ひしこと故也、数千百人の智お用るは、何程才智発明たりとも、数千百人の智におよぶ理なし、是故に人君は能諫お納れ、衆人の言お容れて、其よろしき所お取るお、人君の度とす、しかしながら人の言お偏に信ずるは、姦の生ずる端なり、〈○中略〉衆議の上にて、是非得失お論じて、其言お用れば、事に失誤なし、