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有徳院殿御実紀附錄

ある時、仰に、〈○徳川吉宗〉凡人としてものまなびせねば、倫理おだに弁ふる事お得ず、あやまてば禽獣にひとしき行ひもいでくるぞかし、まして士たるものは、あげもちひらるゝ時は、朝政にもあづかるものなれば、ことさら文学に志すべきなり、我常に思ふ、今の世学問なきものは、人の前に出るも、おもなき様におもふ風俗になしたきものなりとこれ小納戸浦上弥五右衛門直方がありがたき尊諭なりとて、人にかたりし所なり、又常に年若き小姓御伽の衆などに、御みづから経書の句読おさづけ玉ふ、水上美濃守興正なども、其頃御教おうけし人なりき、また諸番士当直の時、おのがつぼね〳〵にて、書籍お見る事、心のまゝなるべしと、みゆるしありしとぞ、