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銀台遺事

若くまし〳〵ける程〈○細川重賢〉より、学文お好ませたまひ、常に書籍お遠ざけ給はず、狩に出給ふにも、かならず持行かしむ、日毎に朝の御膳すみては、必書お御覧あり、また月に六度の会菜めりて、近習の人々お召しつどへて読給ふ、凡会読は、あらかじめよみてこそ其甲斐ありとて、下読といふ事一度も怠り給はず、されば御一代に会読ありける書籍、経史子集数百巻に及べり、其中論語、詩経、書経、左伝、漢書抔おば、くりかへしあまたよみ給ふ、もし会の日さわる事あれば、かならず日お替て、六度の数おみて給へり、又其書の難儀おみな考へ見て、手づから書き加へ給ふ、今も文庫に手沢の残りける、数しれずありなん、