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兵法一家言
三/操練
予〈○佐藤信淵〉が阿州にて工夫したる自走火船は、諳厄利亜舶お焼打するには、極て酷烈なる者なり、所謂予が自走火船は、火薬お以て船お走らしむるお以て、風波の逆順に拘はらず、直行すること矢の如く、須臾に五十町の外に至る、且数船お連進するの法有りて、衆の火船自ら賊船お囲摎して焼打し、其火お発するに及らは、数十の火矢と烽烙お震発し、紅焰天お焦して、黒烟地お覆ふ、絶て人かお労すること無くして、意外なる大功お成す、此業おも年々一両度づヽ操練して置くべし、防海第一の火術なり、海国は鯨船、地引舟等の、用に任ざる古舟と雖ども、此お乾燥て貯置べし、自走火船お製するに必用の物たり、五艘一連、七艘一連は費多きお以て、二艘力三艘お一連として操練すべし、此物少しも人力お用ること無くして勁敵お破る、信に前人未知らざる所の火攻方なり、