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春鑑抄

信とは訴文曰、信誠也、於文人言為信、言而不信非為人也、いふこヽろば、信はまことなり、いつはらぬお信と雲ぞ、字にも人篇に言の字おかくは、人のものお雲ことは、必まことがなふてはぞ、信がなくば人とするにあらずと雲心ぞ、増韻に愨実不疑不差爽也と雲て、信とは愨実にして、よく物おつヽしみ、まことあるお雲ぞ、まことあるほどに不疑とは、まことあるほどに、物おうたがいもないぞ、不差爽とは、信ある人はものお雲にも、首尾の相違してたがふことないぞ、ことばにいだしたらば、是非におこなはではかなはぬことぞ、口にはまことさふに雲て、心にはさもなふて、口と心と違はせぬぞ、信ある人は、まづ心お廉直にもちて、一毫もまがりぬることなきぞ、又ことばもいかにもたヾしくて、道にあらざることは雲ぬぞ、つとめて善道お行て、足蹈実地軽薄になひぞ、約信と雲は、人と約束したる事も、時はたがふとも、日はたがはぬやくに、今日約したる事が、はや明日は違ふては、信ではあるまひぞ、かりそめにも人おも欺ざるが信ぞ、五常に信あるは、五行に土あるが如し、土と雲ものがなくば、金もあるまじ、木もあるまじ、水もあるまじ、火もあるまひぞ、さるほどに五行には土が専なるものぞ、そのごとくに人に信がなくば、仁義礼智の道も行はるべからず、故に信お土にたとへたぞ、〈○下略〉