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山鹿語類
二十一
正直
師曰、大丈夫の世に立、正直ならずんば不可有也、其義有処は守て、更に不変の謂也、其親疎貴賤に不因、其可改所お改め、可糾事おたゞして、不諛人、不従世の謂也、世間に身お立つるとは、世にまかせ人に不従しては、理のまゝに立こと有がたしと雲へる輩、俸禄お得ながら、君の非お不糾、父兄の惡お不諫して、時とともに追従し、大禄大官に預て、当世にへつらひ、時節お以て君お諫むべきと雲の内に、光陰ついに空しくして、一生一事おなすことなし、猶可恥、猶可笑、凱大丈夫の心存せるならんや、唯禄により官にさへられて、本心こゝに放失し、世の弄臣となれるなるべし、〈○下略〉