[p.0018]
今昔物語
二十
高市中納言依正直感天神語第四十一
今昔、持統天皇と申す女帝の御代に、中納言大神の高市麿と雲ふ人有けり、本より性心直して心に智り有りけり、〈○中略〉或る時には、天下早魃せるに、此の高市麿、我が田の口お塞て、水不入して、百姓の田に水お令入む、水お人に施に依て、既に我田焼ぬ、此様に我身お棄て民お哀れむ心有り、此に依て天神感お垂れ、竜神雨お降す、但し高市麿田のみに雨降き、余の人田には不降ず、此れ偏に実の心お至んには、天此お感て、守りお加る故也、而れば人は心直かるべし、永く横様の心不可仕ず、〈○下略〉