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続近世奇人伝

日雇八兵衛
加賀杉原といふ所に、八兵衛といへる日雇あり、妻にもおくれて、子二人もてり、貧窮なれども、性得律義なるもの故、人も憐しが、或時病に臥て日比へしかば、あたりの富豪の家より米銭おおくれど、かつてうけず、医師などとふらひて薬お与んといへど、是も辞して、百日の余におよべど、治せざれば、飢渇に堪ず、さて二人の子およびて、幼少なりとも、我いふことおよくきけ、無事なる時だに、まどしき身の、まして今病にかゝりて、人の金銭お貸ては、かへすべき日なし、かへすあてなきものお貸ては、身命おつなぐも、人おあざむくににて快ず、是よりは女等乞食してくらすべし、われも命あらば活べし、命つきば此儘に死せんと、こま〴〵といひ含めしかば、姉は十二、弟は九歳なりしも聞わけて、椀など持て乞丐となりける、