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肥後物語
賄賂追従の路塞りたる物語の事
城下豊饒の町人、堀平太左衛門方に、〈○中略〉肴お一折持せたりけるが、平太左衛門いかさま存付しこと有しや、右の町人お玄関に通し、次の間より対面し、其方は拙者に何ぞ頼み度ことありや、分に過たる肴お遣はしたり、さて〳〵愚なるものかな、理筋ある事ならば、いかなる下賤の者なりとも、理の通りに八くまじきや、〈○中略〉大に叱り這入りければ、町人〈○中略〉肴お持せ、空く帰りける、暫くありて、町役人右の町人の宅に来りて、其方堀大夫に賄したる由、右の咎により、五日の間、見世お下すべき旨、被仰出たりと、表裏の門戸お閉引取たり、け様のことなどは、間々承り及びしが、急度賄賂相止たることは聞及申さずと物語せり、