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貝原篤信家訓
士業勿怠
一平生財用の節なく、侈費す事多ければ、財不足する故に、貧窮お救はずして不仁に流る、廉恥の心も自薄く成て、義理おうしなひ、親戚朋友の交り、簡略にして礼に背き、人の財物お借ても償ふ事ならずして信おうしなひ、軍用に乏しくては不忠となる、財お用る事宜にかなはざれば、財不足して憂きこと如斯多し、常に身に奉ずる事倹約にして、財お用ひ過さず、奢お抑へ費お省き、入る事お量りて、出す事おなし、余財お存して困窮お救ひ、不虞に備へ軍用お助べし、古人三年耕作して一年の食あり、其の禄お四つに分て三つお以て一お残す、是古財お制する法なり、又変災なくば、人の財お借らざれ、借らば強く倹約お行ひ、常に心にかけてはやくかへすべし、疎にすべからず、人の財物お借りて返さゞるは、至て不義なれば、我子孫かならず是お誡べし、此儀お能々まもるべし、また財多くば人に施すべし、吝嗇なれば仁義のみち行れず、不仁不義になるなり、夫れ身に奉ずる事薄きお倹約として、人に施す事薄きお客嗇とす、倹約は善にして吝嗇は惡なり、これ天地懸隔ならずや、愚なる人は必此二つのものお弁へず、大様同事のやうにおもへり、