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本与錄

一倹約おむねとすといへども、倹約と吝嗇と似て非なるものなら、倹約とは其分おうちばにすることなり、人君には人君の分際あり、卿大夫には卿大夫の分際あり、其分おこゆるお奢といふ、其分よりうちばにするお倹約といふ、吝嗇には世にいふしわくさもしきおいふ、世に倹約の名お仮て、吝嗇お行ふもの多し、吝嗇なるものは、必不仁にして惨刻なるものなり、倹約の名お以て、しわくむさく人情にはづれて、人の苦おも顧ず、人の心もはなるゝものなり、是故に孟子為富不仁なりといへり、倹約と吝嗇との分、是また弁ふべき事なり、凶徳と盛徳との界なり、吝嗇の人は必不仁としるべし、