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徒然草

平宣時朝臣、老の後むかしがたりに、最明寺入道〈○北条時頼〉あるよひの間に、よばるゝ事ありしに、やがてと申ながら、ひたゝれのなくてとかくせしほどに、又使きたりて、直垂などのさぶらはぬにや、夜なれば、ことやうなりとも、とくとありしかば、なへたる直垂うち〳〵のまゝにてまかりたりしに、てうしにかはらけとりそへてもて出て、此酒おひとりたうべんがさう〴〵しければ申つる也、さかなこそなけれ、人はしづまりぬらん、さりぬべき物やあると、いづくまでももとめ給へとありしかば、しそくさして、くま〴〵おもとめし程に、だい所の棚に小土器にみその少つきたるお見出て、これぞ求えてさぶらふと申しかば、事たりなんとて、心よく数献に及びて興にいられ侍りき、其世にはかくこそ侍しかと申されき、