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梧窻漫筆拾遺
神君の黄金百両お人に賜ひて、其上は包みの奉上の紙お、御近辺の人に、善き紙なり、用に立つべし、仕舞おけと仰せられたると、黒田長政の御旗本へ白銀二百枚お借したるに、程お歷て、其人の返済せんとて持参せしお、初め借し申したる時、兼ねて進上すべしと思ひたりとて、受け取らず、さて今朝吉鬣魚お貰ひたり、まいらすべしとて、料理人お召して、吉鬣魚の身所は塩にして貯ふべし、中打あらお潮煮にして、客に饗すべしと申されたり、百両の金二百枚の白銀お以て、人お恵むこと吝惜せずして、一枚の紙、吉鬣魚の身所お無用には費し給はず、国天下お興す人は、天得の性に各別あり、聖人の倹も如是なるべし、