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明良洪範
十五
光義卿〈○尾張藩主〉倹約お専とし、一汁二菜の外は召上らず、千代姫君或時仰せに、御年寄らせられては、御養生猶以て肝要に候、いかに倹約お遊ばれ候とて、余りの事に存じ候、我等膳お配当申さんとて、三汁七茱お送られける、光義卿仰せに、婦人の知らるヽ事に非ず、吾一汁二菜の国中家士及び農商迄への手本也、又養生の義は、一汁二菜の中に専ら其心お尽しけるにより、申さるヽ迄にも及ばず候、併ながら送られし膳お、隻返さんも無礼なれば、家士共に給さすべし、返辞は対面に申べしとて、使お帰されける、其後御対面にて仰られけるは、人妻となりては、其夫に養はるヽ物なるに、其妻の膳お送らるヽとて、喰はるヽべきや、時に臨て饗応などは格別、向後右様なる事無用也と仰せられける、