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続近世奇人伝

松岡恕庵
恕庵松岡氏、名は玄達、〈○中略〉博覧好古、倹素淳朴の人なること、人のしる処也、今其真率なる二三条お挙ぐ、大きなる倉お二つたて、一つには漢の書、一つには国書お蔵られしほどのことなれども、火桶は深草のすやきお紙にてはり、用いられし、又男善吾〈名は典、字は于勅、号復真、〉幼年より、絹のたぐひお著せず、袴も夏冬となく、麻にて有ければ、門人たち、あまり見苦しとて、よろしき袴お送りければ、先生是お見て、われ仁斎先生の講席に出し時、東涯いまだ幼して、先生の側にあられしが、白き木綿の布子、白き木綿の袴也、是おおもへば、善吾は染色衣たるは奢也とて、かのよき袴は、著せ給はざりけるとぞ、