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北条五代記

三浦介道寸父子滅亡の事
荒次郎〈○三浦〉は廿一歳、器量こつがら人にすぐれ、長七尺五寸、黒髪有て血眼なり、手足の筋骨あらあらしく、八十五人が力(○○○○○○)おもてり、さいごの合戦のため、おどし立たる甲胄は、鉄おきたひ、あつさ二分にのべ、是お帯し、しらかしの丸木お、一丈二尺につゝきり、八角にけづり、筋がねおわたし、此棒お引さげ、一人門外へゆるぎ出たる有様、やしやらせつのごとし、おめきさけぶこえ、太山もくづれて海に入、こんぢくもおれて忽に沈がごとし、四方八方へ逃る者おゝつ詰、甲の頭上おうてば、みぢんにくだけて胴へにえ入、よこ手にうてば一払に五人十人打ひしぐ、棒にあたりて死する者五百余人、其尸は地にみちて、足めふみ所もなし、たゞ是らせつこくの鬼王がいかりもかくやらん、此威に皆敗北して敵もなければ、みづから首おかき落し死たりけり、