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近代正説砕玉話

一平松金次郎は、生資驍勇にして外貌温順なり、或時一友平松お悪ろする事あり、平松こたへず、皆匡弱也と思へり、長久手合戦の前に、平松朱柄の鎗お、こしらへたりと雲、人相見てこれお笑ふ、白柄の鎗お以て、敵下鋒おまじへ、鎗に血付ること度々に及で後ならでは、朱柄の鑓お持せざるは、日域の武夫の法なり、平松長久手に於て、旗本の前にて衆お離れ、独り進で一番鎗お合せたるに、其後に継者なし、これに由て源君新知二百石お賜ふ、平松衆人の中に出て、男子の勇とするところば、隻戦場はたらきにあり、喧嘩お好むは下僕の業なり、我今度長久手に於て、年来出さヾる勇お出せり、我が後にだに継たる人なし、人各能あり、不能あり、我喧嘩には誠につたなし、敵と相合ときは、人より勝れぬと雲、これに独る者なし、