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菅氏世譜
文禄三年朝鮮在陣〈○中略〉二月十三日、長政公〈○黒田〉又山に入て虎お狩給ふ、長政公鉄炮お以て、かけ来る虎お、間近く寄て、打殺し給ふに、其後猛き虎一つかけ来りしお、長政公又鉄炮お構へ待給ふ所に、虎脇に人有るお見付け、長政公の方へは来らずして、正利が与力の足軽列居たる所にかけ来り、一人おば、肩おくはへて後へなげ、一人おば、其腕おくらつて倒す、是お見る者、恐怖せずと雲者なし、此時正利は、朱塗の鎧お著たりしかば、人多き中にも、いちじるくや見えけん、正利おめがけ懸来りけるお、正利〈二十八歳〉是お見て、少もさはがず、刀お抜てすゝみ寄かけ来る虎お一刀切る、刀能くきれて、虎一声哩て、即時に倒れんとする所お又一刀切て、終に首お打落しぬ、あゝ此時正利の奇代の勇と、其刀の利成るとにあらずんば、虎口の害おまぬがれがたかるべし、此刀備前吉次が作にて、長さ二尺三寸一分有り、今に相伝て、菅の家にあり、