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窻の須佐美

松平甲斐守輝綱のもとに、武功の誉ある士お客として置れける、常に慇勤お尽されける、一夜話の席に、事の急変ある時に、うろたへるもの多し、兼て心お有様(もちやう)にあるやと問れしかば、士答へて雲、何もなくて夜中など急なる事のありて起出るには、陰囊お引たるがよく候、囊のちゞみて居るものなり、身ふるひ出して、埒の明たるものにて候と答へけり、