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奥州波奈志
砂三十郎
鉄山公と申せし国主の御代には、ちから持といはれし人も、かれ是有し中に、砂三十郎と雲し士、男ぶりよく、大力にて、ちえうすく、みづから力にほこりて大酒なりしが、酒に酔て帰る時には、夜中通りかゝり次第に辻番所お引かへすが得手物にて、度々のことなりし、寺にいたりては、つきがねおはづしてこまらせなど大の徒人也、〈○中略〉其ころ清水左覚と雲し人も、大男に大力成しが、おとなしき人にて、更にいたづらはせざりしが、三十郎と常に力おあらそひてたのしみしとぞ、左覚三十郎にむかひ、その方力自まんせらるれど、尻の力は我にまさらじ、先こゝうみよとて、尻のわれめに石おはさみて、三十郎にぬかせしに、抜かねて有しとぞ、左覚は我おもふ所に、一身のちからお集ることお得手たりし、