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新著聞集
七/勇烈
強力重く担ひ、耳力得金、
勢州松坂の鎌田又八、江戸本町より、国許へ上るとて、のり掛ものして、小田原に至るに、町人の荷物は増駄賃なくては馬出さじと雲、又八〈○中略〉同道の者の荷物とり合せ、其外品々おゆひつけ、蒲団張二筋もて軽々と負たり、馬子どもおどろき、よしや力まさりてかくはする共、嶮難の所にかかりなば、かなふまじきぞ、その時おもふ程駄賃とらんとて、馬の轡おひき、跡につき行ほどに、いつしか峠に至りしかば、人々あきれはて、人間の所為にはあらじと恐れしとなり、又江戸にありし時幅一間に奥へ三尺の戸棚おこしらへ、太き緒綱と一握ある柏の棒おそへおきし、明暦三年正月の回禄の時、件の戸棚に、絹類おかぎりにつめ、著物いれし葛籠二つうへにゆひつけ、連著にて背負、柏の棒おつき、道の妨なる者あれば、左右へなげやり、群集お押わけ、浅草に出しとなり〈○下略〉