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平治物語

待賢門軍附信頼落事
大宮表には平家の赤旗三十余流差挙て、勇進める三千余騎、一度に、鬨お咄と作りければ、大内も響渡て火し、〓波に驚て、隻今まで由々敷見へられつる信頼卿、顔色変て草葉の如くにて、南階お被下けるが、膝振、て下兼たり、人なみ〳〵に馬に乗らんと引寄せさせたれ共、ふとり責たる大の男の大鎧は著たり、馬は大き也、乗はづらふ上、主の心にも似も似ず、はやり切たる逸物なれば、つと出んつと出むとしけるお、舎人七八人寄て馬お抱へたり、放たば天へも飛ぬべし、穆王八匹の天馬の駒も角やと覚ゆる計にて、乗か子給所お、侍二人つと寄て、疾召候へとて押揚たり、余りにや押たりけん、弓手方へ乗こして、伏様にどうと落つ、急引起して見れば、顔に沙ひしと付、鼻血流て見苦かりけり、