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西行一生涯草紙
このたびの出家さはりなくとげさせ給へと、三宝に新請し申て、やどへかへりたるほどに、としごろたへがたく、いとおしかりし四歳なる女子、えんにいでむかひて、ててのきたるがうれしきとて、そでにとりつきたるお、たぐひなく、いとおして、目もくれ、なみだもこぼれけれども、是こそは、煩悩のきづなおきるとおもひて、えんよりしもへ、けお己したりければ、なきかなしみけれど、耳にもぎ、入いれずして、うちにいりて、こよひばかりの、かりのやどりぞかしと、なみだにむせびてぞ、あはれにおぼへける、女はかねてより、おとこの家出せんずることおさとつて、このむすめのなきかなしむおみても、おどろくけしきのなかりけるこそ、哀なりけれ、