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源平盛衰記
四十六
頼朝義経中違事
鎌倉殿〈○源頼朝〉仰けるは、九郎が心金は怖き者也、西国討手の大将軍に、誰おか可立と思しかば、両三人お呼、心根見んとて、提絃お焼て、手水かけて進せよと雲しかば、始は蒲冠者参て、手お焼、あと雲て退ぬ、二番に小野冠者来て、是も手あつしとて除ぬ、三番に九郎冠者、〈○義経〉白直垂に、袖露結肩に懸て、彼焼たる提絃お取て、顔も損ぜず、声も出さず、始より終やで、手水お懸通したる者也、あはれ是お今の大将と思て、都へ上せ西国へ指下たれば、木曾と雲、平家卜雲、三年三月の戦に、九郎冠者先おのみ蒐けれ共、終にうす手一も負ず、〈○下略〉