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志士清談
信長〈○織田〉放鷹に出て、鶉の落草あり、秀吉微き時、これお守らしむ、先左右の鶉お取せて後、秀吉の守所に抵る、鶉遠く這て、犬お入てもなし、信長怒て、女猿何おか守れるや、立ながら睡りたるか、吾聞く、真蒋お以て、皮膚お摩すれば、大に腫と、命じて摩せしむ、衣、お脱ぎ、裸になして摩するに、皮膚細截して血流る、家に帰て後ち、身熱し腫疼こと甚し、秀吉、其夜更番に当れり、城に住て宿す、怨言慍色なし、明日信長見て、笑て召之、秀吉目も腫れ塞がはて、見ること能はず、足も腫れ満て、歩こと不堪、楹に触れて僕る、起て匍匐して前む、皆誹て曰、何ぞ自ら愧ることお知らざらんや、或曰、大志ある者は、小辱お憂へず、是れ韓信が胯下の俯出に同じ吾人必らず彼が下風に附かざる者はあらじと、果して其言の如し、